〇旅行記あるいはエッセイについて -鹿島茂「パリの秘密」
ブックオフをはじめ古本屋に出かけたとき、
在れば必ず、旅行に関するコーナーへ向かう。
旅行会社のガイドブック、店をまとめたもの、限定した交通機関でいかに楽しむかというもの、都市からの日帰り旅行等々…どれも見ているだけでその土地への興味をそそられる。いったいどれほどの時間を掛け、一冊が作られているのだろう。
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その中でも私がもっとも時間を掛けて読みたいのが
エッセイ?というか留学体験記だったり旅行記だったりの「自分の体験」ものだ。
文庫本で出版されていることが多い。
よく見る国はイタリア、フランス。
先ほどのおすすめ系はイギリス、ハワイや台湾、韓国、最近は北欧も増えたようだが。
何故エッセイ・旅行記が好きかというと、
実体験が含まれているから、である。
ガイドブックなどは、作者によって提示されるがままに「もの」を見ていく。
旅行記はそれは「感情」になる。こう感じた、行動した、そして見た景色がどうだった。ノンフィクションの小説だ。
よって前者は情報量が多く、それぞれにあまりつながりはなく商品を見せられているようで、
後者はゆっくりとした時間の流れを、私の想像力と織り交ぜることで全く異なる時代を生き、知りえない人間を知ることが出来る。
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話は逸れるが、ガイドブックは旅行後に価値を持ち始める。
もともとガイドブックという物が好きで旅行に行く前は必ず紙の地図や本を用意するが(携帯では電池切れが怖い)、
用が済んだらあちらで捨てて来ようとしたところ、ページごとに思い出がまさに付箋のように付加されていて、すべてを持ち帰らざるを得なかった。
又その量がガイドブックらしくあまりにも多い為いっぱいいっぱいになってしまい、しばしば疲れているときにガイドブックを読むのは良くない。
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推理小説がエンタテインメントと評されるごとく、わたしにとっては旅行記こそ今でいうVRのような、目の前に非現実を映し出す道具なのだ。
そしてまた、中でも、今までで最も読んでいる時に心地よいと感じた作品が
鹿島茂 著『パリの秘密』(中公文庫)
この作品は上記の①②両方を併せ持つので、全くパリを知るのが初めてでも読み進められる。
特徴としては、
まず紹介の仕方が”観光客向け的”でない。
表層のきらびやかさからさらに奥へ入り組んだ部分を描きその背景歴史的背景にも触れることで、読者が体験する空間が何倍にも広がる。
次に著者の好き嫌いの感情が、柔らかい。
よく見られる「自分はここでこうするのが好きだ」とか「こうせずにはいられない」とか、共感できる部分は良いが、それがあまりにも連続すると少し強制的な感覚を覚えることがある。想像の世界に著者が歩いている風景が作られてしまう。また内輪の話、のようにも思うことがある。
本書の場合、著者が目にしているものを客観的に説明すると同時に著者の感性があって、好きという感情が絵具となり景色が鮮やかになっていく、そんなイメージを抱いた。
一度図書館で借りて、一度読んだだけで終わってしまい読み込めていない部分ばかりだ。
しかし内容とは別に文体が雲の上で寝ているような流れであったことは、感覚として覚えている。
ページ数も多くなく、テーマがとても細かく分かれているのでとても気軽に読めるだろう。
もしこのような本が別の国をテーマにしてあれば、自分は恐らく、もっと知りたいと思い、画像を検索するかガイドブックを見に行くかの行動に出ている。
鹿島茂さんはかなりの数出版をしていて本屋でも数冊しか扱われていないが、地道にほかの著書にも触れてゆけたら、うれしい。